世界を旅し、カメラ片手に海を泳ぐ。そして”Salty Babe”たちが波と戯れる美しい瞬間を、そこにあるハッピーなヴァイブスとともにフレームに収める水中フォトグラファー、Nachos(ナチョス)。こと、ナチョちゃんと初めて会ったのはバリ島の街角、バトゥボロンというサーフポイントからすぐのレストラン。蒸し暑いけれど潮風が心地いいアウトサイドの席に座って、ビールで乾杯して、おしゃべりしながらフィッシュタコスを食べ、ワインを飲んだ、It was just a surfer girls’ night.
それから1年。Wave/yのカバーショットをお願いするタイミングで再会した彼女は、DIYしたというボヘミアンで可愛らしいVANに、サーフボードとカメラ機材、自作の写真集「SEA FLOWERS」を積んで、湘南にやってきた。
"海+旅+女の子の物語"をテーマに写真を撮り、言葉を紡ぐことをライフワークにしているNachosの素顔こそ、一目会ったら「あぁ、だからこんなに彼女の写真はピュアでラブリーなんだ」とわかる、とってもチャーミングなサーファーガール。だから今回は、いつもは伝える側にいる彼女自身の海と旅、フォトグラファーになるまでとこれからの物語を、ここに。
Wave/y(以下、W):サーフィンに出逢ったのはいつ?
Nachos(以下、N):高校生のときです。伊良湖の近くに住んでいたので、周りにサーファーの友達が多くて、よく海に遊びに行っていて。そのときにちょろっと海に入ったのが最初で、本気でボディボードをやるようになったのは3、4年経ってから。仲のいい友達と一緒に海に入るようになったら楽しくなって、上手くなりたいって思うようになって、いつの間にか夢中になっていました。
それで、21、2歳の頃、初めてバリ島に1ヶ月、サーフトリップに行ったんです。当時、一緒に行った子たちはまあまあ上手くて、私はまだ下手で......一人だけゲットができなかったんですよ。それがすごい悔しくて、日本に帰ってきてからめちゃくちゃ海に入るようになりました。それからはずっと、海に入って、仕事をして、お金が貯まったら海外にサーフトリップに行く生活。いちばんよく行くのが大好きなバリ島で、あとはメキシコ、カリフォルニア、オーストラリア、ニューカレドニア、フィリピンにも行きました。
W:サーフィン中心で過ごした20代を経て、写真を撮り始めたきっかけは?
N:5、6年前にバリ島で友達になった外国人の女の子たちと水着を作って売るビジネスをしたことがあったんです。当時、インスタグラムが流行り始めた頃で、サーファーやビキニの女の子の可愛い水中写真をよく目にするようになっていたから、その水着のヴィジュアルもウォーターショットで撮影してもらおうと思ったんですけど、結局、バリでは水中写真用の機材がないとか、水中カメラマンのフィーが高いとかで思ったような写真を撮ることができなくて。「じゃ、自分で撮れるようになった方が早いな」って。
W:水中写真がスタートだったんだ!?
N:はい(笑) バリにいる間に海で会う外国人の水中カメラマンたちにどんな機材を使っているかを色々聞いて、日本に帰ってからアルバイトを増やして、いきなり本気のカメラとハウジング(※水中写真用のカメラカバー)を買っちゃった。それで、そのカメラを持ってメキシコに行ったんです。
メインはサーフトリップで、写真は「ちょっと撮れたらいいな」くらいの気持ちだったんですけど、ある日の夕方、メキシコのサユリータっていうポイントで入っていたら、めちゃくちゃ可愛いロングボーダーの女の子が私の目の前を通り過ぎて行って、その瞬間、「うわぁ、可愛い! こういう写真でしょ!」ってなって! その後はもう夢中で、とにかくすぐに海から上がって、板をそのままビーチに置いて、メキシコの街を水着のまま全力で走って、走って、走って…。宿に置いてあったカメラを持って、また走ってビーチに戻って。日が暮れてきたから急いで海に入って、その子のところまで泳いで行って「写真を撮らせてください!」って言って、撮らせてもらった。
その時のメキシコの景色、夕暮れの海、そして彼女。なにもかもが綺麗で、その1回で写真を撮ることにハマっちゃいました。後から知ったのですが、その子はローラ・ミニョ(※メキシコ・サユリータローカルのプロロングボーダー)だったんです。
W:わぉ! メキシコですごく運命的な出逢いと体験をしたんだね。
N:そうですね。それからもう次の日はサーフィンよりも写真が撮りたくて、ローラがいつ来てもいいように、朝からカメラを準備してビーチでずっとスタンバイしていたくらい。そしたらローラが来てハイファイブしてくれて、それもすっごく嬉しくて、海に入ったら今度はポジショニングもままならない私が一生懸命浮いてるところに合わせて乗ってきてくれた。プロですよね。それを見ていた他の子たちも、カレントやリーフの位置を教えてくれたり、いっぱい話しかけてくれたりして、写真を通してコミュニケーションが生まれる楽しさもそこで知ることができました。
W:ところで、旅に出る前から水中カメラを持って海で泳ぐ練習はしていたの?
N:全然してないです(笑)。でも海外のラインナップで水中カメラマンを見たことはあったので、アウトまでのロングスイムやカメラを持っての立ち漕ぎは当たり前だと思ってた。足が着くところで撮るとかそういうつもりは全然無かったですね。水泳はそんなに得意じゃないけど、ずっとボディボードをやっていたからフィンを使って泳ぐことに慣れていたっていうのは大きいかな。
W:カメラを持って海へ、旅へ出るようになった先にはどんな新しい世界が待っていた?
N:海で写真を撮るようになってから、どこの国に行っても声をかけられることがすごく増えました。海上がりや、夜、パーティーに遊びに行ったときとかに「今日、海で写真を撮ってた子だよね」って言われたり、「Nachos !? 私、あなたに会いたかったのよ!」って海の中でいきなり外国人のサーファーに声をかけられたり。
海外には女の子のウォーターフォトグラファーもけっこういるので、海の中で交流が生まれることもあります。女の子同士だからお互いに声をかけ合ったり、情報交換したり。以前、憧れていた女の子のカメラマンが海の中で私の写真を撮ってインスタグラムに上げてくれたことがあって、キャプションには「旅に出て写真を撮るのは楽しい。でも海の中でひとりで泳いでいて波が大きかったりするとナーバスになるときもある。そんなとき横を見たら、もうひとりの私がいた。その子の存在は大きかった」って書いてくれていた。すごく嬉しかったし、みんな同じ気持ちなんだって励まされました。
サーフィンを愛する女の子たちのハッピーで美しく輝いている瞬間を写真に撮ることと同じくらい、そこから派生するコミュニケーションも私にとっては大好きで、大切なもの。失敗も凹むこともいっぱいありますけどね。カレントに流されたり、怖くてラインナップに辿り着けずに引き返したり、カメラトラブルもあるし、思うような写真が撮れなくて泣くこともしょっちゅう。でも、そこから少しずつ前に進むことでまた誰かとつながれて、世界が広がっていくのが楽しいんです。
W:旅をして、サーフィンしながら、実践で覚えていった水中写真。それが仕事になり始めたのはいつごろから?
N:最初はただ楽しいから写真を撮っていただけで、仕事にすることはあまり考えていなかったんですよね。でも外国にいると、対価をきちんと払う、受け取るっていうのが当たり前で、ビーチでカメラを準備していたら「いくらで撮ってくれるの?」とか、私が「ただであげる」って言っても、お金はちゃんと払うよとか、物々交換を提案してくれたりとか、そういうのが自然と増えてきて。だから海外の人が勝手に仕事にしてくれて、気付いたらふわーっと写真を撮ってお金をいただくようになっていた感じです。
W:最近では日本でも撮影の仕事が増えてきているNachosちゃんだけど、水中以外の陸での撮影はどうやって学んだの?
N:アパレルブランドのLOOK BOOKやリトリートの撮影を担当させていただいたんですけど、そう、陸なんです(笑)。だから、自分で練習したり、他のカメラマンさんのアシスタントに付いて2、3回勉強したことはあったものの、最初はほぼぶっつけ本番に近くて、新しいチャレンジでした。
でも私、昔からプライベートで「これ、ここから撮ったら可愛いだろうな」って考えたり、ビーチを飾り付けして撮影したりするのがすごい好きだったので、その延長線上で、その場のタイミングや雰囲気、インスピレーションを大切にして、自分の「可愛い!」を信じて撮っています。カメラの設定や現像は「こういうふうに撮りたいとき、表現したいときはどうしたらいいんだろう」って思うたびに調べて、やりながらひとつひとつ覚えています。
W:それもセンスだもんね。
N:私は写真の専門学校を出ているわけじゃないし、スタジオで働いたこともない。水中写真だって独学です。だから、一番最初にヨガインストラクターの岩崎玉緒さんが「あなたの写真に惚れたから!」って言ってリトリート撮影の仕事を依頼してくださったときも、まずは正直にそれをお伝えしたんです。そうしたら彼女が「でも私はプロとしてお仕事を頼みたいから、あなたにもプロとしてやってほしい。そしてお金もきちんと受け取ってほしい」って言ってくれて。
そのときから、「ここからまた進んでいくためには、そういう気持ちも持っていこう」「私の写真を必要としてくれる人たちのために、もっと力を付けたい」と考えるようになりました。 けして過信はしないけれど、今までやってきたことには自信を持って、自分の個性と感性を生かしていこうって。
W:これまで自分らしく生きるために大切にしてきたこと、そしてこれから大切にしていきたいことは?
N:サーフィン、旅、写真。自分の"好きなこと"をずっとやってきたら、気付いたら形になっていて、仕事にもなっていた。好きでやってきたから楽しくて、辛かったり大変だったりしてもけして嫌にはならないし、失敗も勉強だと思えます。
あと私がやってきたことがあるとすれば、とにかく"行動"すること! 波乗りだって旅だって、そこに行くために決断して、行動するって、けっこう勇気がいるときもある。言葉が通じない、お金がない、時間がない、スキルがない.....動かない言い訳はいくらでもできるけど、それを言ってたら何も始まらないんですよね。頭の中で考えているだけだったら、やっていないのと同じだから。
だから、やりたいこと、行きたいところがあったら、まずは動いてみる。思い切って飛び込んでみる。そうしたら何が起きても誰かのせいにすることはなくて、自分の責任として受け止められる。未来がもっと楽しくなるように、自分の写真や仕事をより良いものにできるように、私はこれからも動きます。
W:フォトグラファーとして、いちばん嬉しい瞬間は?
N:私の作品で誰かに喜んでもらえることがいちばん嬉しいです。昨年、3ヶ月くらいかけて全78ページのZINE(※自由形態の出版物)の写真集「SEA FLOWERS」を自作して、東京で個展を開いたんですけど、それを見てくれた方から「ありがとう」「幸せな気分になりました」「勇気をもらいました」とか、本当にたくさんのメッセージをいただいて。私が撮ったもの、作ったもので喜んでくれる人がいるってすごい、そんな嬉しいことってあるんだって感動しました。
私が撮った写真を通して、今度はそれを見てくれる方との間にまたコミュニケーションが生まれ、つながり、ハッピーが伝わっていく。こんなに幸せなことはありません。行動してるのは自分かもしれないけど、ひとりじゃ何もできないし、何も生まれない。周りの人に支えられて、今こうして写真を撮れていること、見ていただける環境に心から感謝しています。
W:最後にNachos流ハッピーな1日の過ごし方と、これからの夢を教えて!
N:朝、起きたらまず白湯を飲んで、自分でコーヒーを淹れて、朝ごはんを作って、その間に友達とやりとりして波チェック。波が良かったら海に行って、サーフィンして、そのあとは友達の家でそこの畑の野菜を摘んでご飯を作って食べたり、原稿を書いたり写真を現像したりして、夕方からはビーチでお酒を飲む。日本でも海外でも、基本こんな感じで過ごせたらご機嫌です(笑)
次にチャレンジしたいことは動画ですね。大好きな海とサーフィン、旅をいつも近くに感じながら、その空気感、美しいと感じるもの、そこにいる女の子たちのバックボーンやライフスタイル、想いまでもを撮っていきたい。これが私の中にあるパッションなのですが、次はそれを動画で表現してみたいと思っています。
フィン(足ひれ)のみを味方に身ひとつでラインナップまで泳いでゆき、永遠に立ち漕ぎをしながら、波に乗ってくるサーファーを待つ。波の手前にポジショニングするから当然、波は喰らい続ける。そしてずしりと重いハウジング装備の一眼レフカメラを片手に掲げ、シャッターを押す。しかし、そうして撮られたNachosの写真は、揺蕩うやわらかな水、きらめく光、楽しそうに波と踊るサーファーガールたちの笑顔が燦々と輝き、ただひたすらに美しく、優しく、ハッピーであるだけだ。20年来、サーフィン誌の編集に携わってきた私が知るかぎり、日本初であり唯一の、泳いでサーフィンを撮る女の子の水中写真家、Nachos。海と空が溶け合う天界に、夢と居場所を見つけたマーメイドの旅はこれからもまだまだ続いていく。